不耕起水田による生物多様性の実現とその体験・理解 2章 「田んぼの学校」のこれまでの経緯

田んぼの学校

2 「田んぼの学校」のこれまでの経緯

2-1 「田んぼの学校」の前身

農業の近代化に疑問を感じる人たち、絶滅を危惧される生き物たちを憂う人たち、生産者と消費者・都市と農村・大人と子どもたち・学校と地域の人たちとのつながりの回復を望む人たち、田んぼに癒しを求める人たちによる、田んぼを中心にすえた多くの営みが行われてきた。

これらの営みは、1998年「田んぼの学校」研究会が発足してから「田んぼの学校」と言われるものである。そのような「田んぼの学校」以前の営みには、必ずしもはっきりとした目的をもたないことが多いが、結果として農業体験・自然体験・勤労体験・交流・癒しなど多くの成果をもたらすことで注目を集めるようになった。環境問題が重要視されるにつれ、「田んぼの学校」は目的が明確になり、発展してきている。

表2-1-1 「田んぼの学校」をはじめるきっかけ 宇根豊著:「田んぼの学校」入学編より

2-2 「田んぼの学校」支援事業とその目的

「田んぼの学校」事業は、文部、農水、国土3省庁が1998年、有識者を集めて設置した「田んぼの学校」研究会の提唱で始まった。豊かな自然と独自の文化を持つ農村の「多面的機能」を、教育に生かそうというのが狙いである。子どもたちが触れ合う機会が少なくなった田んぼや水路、ため池、里山などを遊びと学びの場に活用する環境教育「田んぼの学校」が、注目を集めた。農水省の関連団体農村環境整備センターでは、農家や行政関係者、教師の中からその指導者を養成するための研修を行っている。

農家にとっては、自分たちの持つ知識が子どもたちの教育に生かせる上、都市住民とつながりも持てる。一方、子どもたちに環境教育として農村生活を体験させたいと考える親も多くなっており、その両方の需要を結びつける仕掛けが「田んぼの学校」である。同センターの1998年度の調査によると、田んぼを使った学習活動の場は全国に約1500ヶ所あり、徐々に広がっているという。特に近年活動を始めた「田んぼの学校」はこの流れをくむものが多く、「田んぼや水路、ため池、里山などを遊びと学びの場に活用する環境教育」がその目的に掲げられている。

同センターの「田んぼの学校」に関わる事業は、指導者養成研修、支援事業(助成金制度)、企画コンテスト、田んぼの生き物調査(環境省・農水省の連携)などである。基本は農業の多面的機能の高揚にあるが、そのための環境教育に力を入れている。

2-3 しが5つの教科書と「田んぼの学校」推進事業

「田んぼの学校」研究会の流れをくむ「田んぼの学校」と、その以前から取り組まれた自然発生的に存在した「田んぼの学校」があるが、共通して言えることは農業体験がその第一のねらいではないということである。

滋賀県が推進事業(2002年度から3年計画)として取り組んでいる「田んぼの学校」は、滋賀県における体験的学習として提起されている「しが5つの教科書」(田んぼ、人、湖・森、まち、文化)の「田んぼ」の中にある。他府県の多くが目的に掲げている「田んぼや水路、ため池、里山などを遊びと学びの場に活用する環境教育」という表現は、ここには見られない。農政課の環境部が直接の担当であるが、意図しているところにずれがあると私は考えている。農業体験を目的としているがそれ以上も以下もなく、「田んぼの学校」研究会の提唱が組み入れられていないのが残念である。体験型環境学習として提起されているのは「湖・森」である。小学校5年生の社会科の教科書でも、これらとよく似た扱い方がされており、農業は食糧問題として、林業は環境問題として扱われている。農業の多面的機能は、どこにも表現されていない。

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