耕さない「田んぼの学校」のすすめ 第3章 「田んぼの学校」に適した稲の栽培スケジュール

田んぼの学校

第3章 「田んぼの学校」に適した稲の栽培スケジュール

 「田んぼの学校」を運営するとき、私の住む滋賀県湖東地方における慣行の稲作スケジュールに従うと、4月上旬に播種、4月下旬から5月上旬に田植え、8月下旬から9月中旬に収穫となります。これでは、学校の他の行事との調整が困難でサポーターである農家にも負担が大きい。他の行事とのバランスを保ち、農家に指導を受けながらも学校主体の「田んぼの学校」を成立させたいところです。

 稲の生育の一大イベントは何と言っても生命の誕生の出穂と開花です。出穂の早い早生品種では、夏休みの前半に出穂、9月の新学期早々に収穫となってしまいます。よって、学校で扱う品種はコシヒカリのような早生品種は好ましくありません。

 一般的な稲の栽培暦は、8月に出穂し9月に収穫することを目指しています。遅く播種し出穂を9月まで遅らせるためにはどうすればいいのか、バケツを用いた栽培実験を行ってみました。5/20~6/24の7日おきに播種してみると、中生品種のゆめおうみ場合、5/20播種で8/22出穂、6/24播種で9/7出穂となり、播種が遅くなれば出穂も遅くなる傾向を示しますが、播種が遅くなれば生育が不十分となり、出穂と登熟が不安定になるようです。これは、生育期間の積算温度の不足が原因です。

 稲の生育は気温によってほぼ決定されます。少し難しい話になりますが、有効積算温度を元に、滋賀県湖東地方における出穂の最晩期(稲が実りを完成できる出穂のタイムリミット)を求めてみました。日有効温度は次式に基づきます。

日有効気温=-0.053x3+0.2746x2-2.9276x+9.17(x:日平均気温、x>7℃)

 稲にとっての体感温度といった意味でしょうか。農業試験場等で用いられているもので、稲の場合7℃を起点として活動を始め、この気温を積算した値に応じて生育量が決まります。

 出穂日からの登熟期間(40日程)の有効積算温度が800℃以上を安全圏とすると、出穂最晩期は9/3となります。これ以上遅い出穂では気温が下がるため登熟が不十分となります。

 播種日が6月だと出穂が9月になるのですが、出穂時の生育が極端に不足してしまいます。他の品種でもよく似た傾向があり、播種から出穂までの有効積算温度は2000℃が安全圏のようです。

 コシヒカリなどの早生品種は8月上旬に出穂日を迎えるため、かなり早い時期に播種しなければなりません。学校ではまだ新学期が始まっていない時期から作業を始めるのは、事実上不可能です。農家からもらい苗をするしか方法はありません。出芽もまた生命誕生の神秘的なシーンです。農家のサポーターまかせになるのは教育効果が半減してしまいます。

 結果として、中生品種を用い5月下旬播種、8月末出穂、10月上旬収穫という日程が学校でのギリギリの最晩期ということになるでしょう。

 日照も稲にとっては大切なものです。コシヒカリなど夏至を出穂のきっかけにしている品種が多くあります。ですから、播種を極端に遅くすることには元々無理があることを知っておいてください。

 稲の品種にはその出穂の時期から早生・中生・晩生という分類があります。近代農業といわれるようになり、収穫時期が遅い品種や機械での収穫では穂がこぼれやすい性質の品種は敬遠され、最近ではあまり栽培されていません。コシヒカリは早生品種、ササニシキは中生品種に属します。滋賀県では滋賀旭という晩生品種があり、食味も大変良く「旭でなければ米でない」とまで言われた時期があります。

 私はこのようなかつての日本の主力品種に注目しています。その中に晩生品種が多くあり、出穂までの期間と登熟の期間が長く(50日前後)、9月に出穂しても登熟のための有効積算温度を確保でき、10月の収穫を迎えることができます。5月に播種し自然の温度で発芽生育させ、9月出穂、10月収穫というスケジュールは、学校行事から見てもサポーターの農家から見ても無理のないところでしょう。

 地域におけるかつての主力品種を調べ復活させることは、楽しい企画になりそうです。

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