不耕起稲作による生物多様性の実現とその体験・理解 6章 稲の生育と学校行事 

田んぼの学校

6 稲の生育と学校行事

滋賀県特に湖東地方における慣行の稲作スケジュールに従うと、4月上旬に播種、4月下旬から5月上旬に田植え、8月下旬から9月中旬に収穫となる。これでは、学校の他の行事との調整が困難でサポーターである農家にも負担が大きく、また、農家にまかせっきりになってしまう。他の行事とのバランスを保ち、農家に指導を受けながらも学校主体の「田んぼの学校」を成立させたいところである。保温・加温のための特殊な機材を使わず、播種から収穫まで他の行事との重なりを避け、ゆとりを持って取り組める稲作体系を検討した。

稲の生育の一大イベントは何と言っても生命の誕生の出穂である。早生品種では、夏休みの前半に出穂を迎え、9月の新学期早々に収穫期となってしまう。慌ただしくもあり、また、最も大切なシーンを見逃してしまう。よって、学校で扱う品種はコシヒカリやキヌヒカリのような早生品種は好ましくない。

滋賀県における一般的な栽培品種のおおよその出穂期は図6-1の通りであるが、田植えの時期や天候、栽培方法によって変わる。私は20ℓのオイル缶を用いてバケツ栽培を行った。オイル缶の大きさは直径30㎝、深さ36㎝(土の深さは26㎝)で苗1本からその生育を観察した。これは水田における1株の稲の根の生育域に近い。その詳細は表6-1に示す。ゆめおうみの場合、5/20播種で8/22出穂、6/24播種で9/7出穂で、播種が遅くなれば出穂も遅くなる傾向を示す。また、播種が遅くなれば、出穂までの生育が不十分となり登熟に必要な体力をもてなくなってしまい、出穂と登熟が不安定になるようである。6/3播種までは16葉齢であるが、それ以降葉齢が低くなった。この生育の遅れは、6/3以降の播種により出穂までの有効積算温度が2000℃を下回っていることからも理解できる。国司(赤米)の場合もよく似た結果を得ている。 播種を遅らせても走り穂(1本目の出穂)を2学期になってから迎えることは無理がある。7/8に播種した国司(赤米)は、出穂したものの稔ることなく冬を迎えてしまった。しかし、5月下旬に播種すれば、8月下旬に出穂を始め9月上旬には穂が揃い少しずつ穂が垂れてゆく姿を観察することができる。この場合、収穫期は10月上旬となり、9月下旬の運動会を終えゆとりをもって稲刈りなどの収穫の一連の作業ができる。

 以上の結果を滋賀県湖東地方の気候から考察した。元になる気温データは、琵琶湖博物館(草津市)で公開された2002年のものを用いている。

 有効積算温度を元に、滋賀県湖東地方における出穂の最晩期を求めてみる。ここでいう出穂日とは、有効茎の40%が出穂した日である。日有効温度は次式に基づく。

 日平均気温 y=-0.0053x3+0.2746x2-2.9276x+9.17(x:日平均気温,x>7℃)

出穂日から登熟期間の40日間の有効積算温度が800℃以上を安全圏とすると、出穂最晩期は9月3日となる。これ以上遅い出穂は登熟が不安定で、なお遅ければ実らないということもある。

 この出穂最晩期(9/3)までに十分な生育を確保するために播種最晩期を求めてみる。播種日から出穂最晩期(9/3)までの有効積算温度を示したのが図6-2である。播種日が6月になると、有効積算温度2000℃を得られず、登熟のための十分な生育が得られない。

図6-2 播種日から出穂最晩期(9/3)までの有効積算温度
※琵琶湖博物館(草津市)で公開している2002年のデータに基づく

 コシヒカリなどの早生品種は8月上旬に出穂日を迎えるため、早い時期に播種しなければ有効積算温度2000℃は得られない。学校ではまだ新学期が始まっていない時期から作業を始めるのは、事実上不可能である。農家からもらい苗をするしか方法はない。出芽もまた生命誕生の神秘的なシーンである。農家のサポーターまかせになるのは教育効果が半減してしまう。

 結果として、学校の行事との兼ね合いから5月下旬播種、8月末出穂、10月上旬収穫という日程が最も良いと思われる。

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