不耕起水田による生物多様性の実現とその体験・理解 1章 はじめに

田んぼの学校

1 はじめに

環境省のレッドデータブックの絶滅危惧種Ⅱ類にメダカが記載され、メダカがにわかに世論の注目を集め、メダカを絶滅から救うための「メダカの学校」運動が日本の各地で取り組まれるようになった。メダカに限らず絶滅を危惧される生物種の多くは水田を繁殖の場所としている。最近特に日本の場合に、水田は治水工事によって失われた「氾濫原の水たまり」に変わる一時的水域の代替的湿地として、多くの水辺の生物に生活と繁殖の場所を提供している機能が注目されてきている。

水田の「多面的機能」が伝えられる一方、農薬・化学肥料の多投、大型機械による多くのエネルギー消費が問題にされている。それにも増して圃場整備による水田と排水路との落差高が、生物種に多くの負荷を与え、また水質汚濁を招いていると見られるようになった。水田を総合的に見れば、この「多面的機能」に疑問を覚えずにはいられない。この論文では、この点に若干の考察を加えてみたい。

時を同じくして、水田を一切耕さずに稲作を行う不耕起稲作の技術が、農業の省力化の最も近道であると注目を集めるようになる。1998年の冷害において、東北地方の不耕起水田ではその被害を免れ、耐冷害性能(温暖化も含めた耐異常気象性能)から不耕起稲作技術の普及に拍車をかけた。私がこの稲作技術に注目しているのは、不耕起水田がかつての水田生態系をほぼ回復しているという点にある。これは、農業にとっては付加的産物であったが、食に安全を求める消費者の声から、環境保全型稲作への近道として評価を受けるように変わってきている。佐渡島では朱鷺を自然に放つための餌場として、冬期湛水された不耕起水田が期待され、また全国的にも、渡り鳥の羽休めの場として不耕起水田が増えてきている。

以前から農業体験や勤労体験として、「田植え」や「稲刈り」に取り組む学校があったが、「メダカの学校」運動をきっかけに、水田の「多面的機能」に着目した「田んぼの学校」運動が様々な市民団体によって取り組まれるようになり、1998年に農村環境整備センター(社団法人)に「田んぼの学校」研究会が設置された。これは、文部、農水、国土3省庁の連携で始まったものである。滋賀県でも、2002年に「田んぼの学校」推進事業が3年計画でスタートした。しかし、現場の小学校では「田んぼの学校」を農業体験として捉えがちで、サポーターである地域の指導者には環境教育の視点をもたないケースが多い。まして、慣行の稲作では環境に負荷を与えるばかりで、環境教育の教材にはなり得ない。私は、不耕起稲作による「田んぼの学校」の実践を取り上げ、「田んぼの学校」における不耕起稲作の有効性について考察を加えたい。

2002年3月

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